医学部 入試戦線に異変あり

2013年6月12日

門戸広がる私大医学部 国公立大との難易度格差は縮小

医学部入学定員の増加とともに志願者は年々増加。

私大医学部は学費値下げと特待生制度の充実で門戸を広げ、難易度は上昇。

国公立大と私立の難易度格差は縮小に向かいつつある。

医学部を志望する受験生が増えている。代々木ゼミナールの調べでは、国公立大医学部2012年度入試の志願者数は、前年度より1846人増え、3万4568人。一方、私立大学医学部の志願者も前年度比2471人増の8万128人を数えた。

志願者倍率も国公立は8.1倍、私立は29.4倍。他学部の倍率は、ほとんど一桁台全般が普通なのに比べて、医学部は依然として高い水準にある。

大学全入時代と言われ、若年層人口の減少とともに受験者人口全体は減少している。その中で医学部受験者人口の増加は目覚ましい。

医学部入試の過熱ぶりには、景気低迷による雇用不安が背景にある。確かに、理工系学部を卒業して大手企業に入社できたとしても、将来は保証されていない。かつて優良企業と呼ばれていた会社が経営危機に直面する時代である。それならば、弁護士や会計士と同じく国家資格の一つである医師の免許を取得すれば、一生安定した生活が約束されるというわけだ。

それだけではない、かつて1970年代の医学部定員増で急激に増えた医師の子どもたちが受験期に入るとともに、医師を目指す女子受験生が増加するなどの要因が複合的に重なって、医学部人気に拍車を掛けている。

医師不足がいたるところで叫ばれ、医学部の募集人員は増えている。しかも、学費の値下げ、奨学金制度や特待生枠の拡大など、経済的負担を軽減する制度も登場している。それならば、「ぼくも医師になろう」「わたしも医学部に挑戦しよう」と、使命感に燃えている受験生が増えているのはうなずける。

国公立大学、私立大学の入試科目

国公立大学の入試 特徴
一般入試前期日程 一般の学科試験による入学試験。大学入試センター試験に加え個別試験として数学、理科、外国語の試験、面接を実施する大学が多い。
一般入試後期日程 一般の学科試験による入学試験。大学入試センター試験のほか、個別試験は、面接、小論文で合否判定する大学が多い。
AO入試 面接や小論文などにより受験者の能力や適性を総合的に評価して合否判定する入学試験。大学入試センター試験の受験を義務付けている。
地域限定入試 地元の高等学校出身者または居住者に限定した入試。
推薦入試 高等学校の校長による推薦を受けた者が受験できる入試。指定校制や自己推薦制もある
地域枠入試 地域医療に携わる医師を育成するために新設された入学試験。合格者には6年間の奨学金が貸与され、卒業後、指定医療機関に勤めれば、奨学金の返済は免除される。
その他 北海道大学の総合入試(2年次から医学部に進学)、東京大学の理科三類(3年次から医学部に進学)など入学後に進学する学部を決める制度もある。
私立大学の入試 特徴
一般入試 一般の学科試験による入学試験。数学、理科(物理、化学、生物など)、外国語の学科試験のほか、面接、小論文の試験を実施する大学が多い。
センター利用入試 大学入試センター試験(センター試験)を利用した入学試験。
AO入試 面接や小論文などにより受験者の能力や適性を総合的に評価して合否判定する入学試験。面接、小論文のほか、適性検査、基礎学力テストを実施する大学が多い。
推薦入試 高等学校の校長による推薦を受けた者が受験できる入試。指定校制や自己推薦制もある。
地域枠入試 地域医療に携わる医師を育成するために新設された入学試験。合格者には6年間の奨学金が貸与され、卒業後、指定医療機関に勤めれば、奨学金の返済は免除される。
その他 昭和大学の地域別選抜試験は、全国を6地域に分け、各地域2人ずつ募集。1次試験は大学入試センター試験を課し、2次試験は小論文と面接を実施している。

後期日程廃止に逆行する国公立大学も

国公立大学で医学部を設置している大学はちょうど50校。ほとんどの都道府県に設置されており、国公立大学の医学部が置かれていないのは、岩手県、栃木県、埼玉県になっている。

国公立大学の入学試験は、一般入試前期日程、同・後期日程が中心だが、ここ数年でいくつかの変化が起きてきている。

変化の一つが一般入試後期日程の廃止だ。過去5年間に17校の医学部で後期日程が廃止された。2013年度入試で後期日程の募集をしている大学は、全体の半数強の27校になっている。

1997年度以降、国公立大学は前期日程と後期日程で募集定員を振り分ける分離分割方式を採用している。前期日程の個別試験では筆記による学科試験と面接を課し、後期日程では学科試験を課さずに面接や小論文を実施する例が多い。

後期日程で面接や小論文を重視するのは、個性的な受験生を合格させて学生の多様化を図るのが狙いだった。ところが、受験生にとって後期日程は敗者復活戦の場となり、このため2007年入試では、東北大学、京都大学など13校が一部の学部で後期日程を中止している。

医学部も2007年度入試で東北大学、京都大学のほか、新潟大学、島根大学が後期日程を中止、さらに2008年度には東京大学理科三類、神戸大学など9校が後に続いた。

だが一方で、後期日程の廃止に逆行する大学もある。山梨大学は2011年度入試から一般入試前期日程を廃止して、後期日程を(募集人員80人)のみの試験を実施している。奈良県立医科大学とともに、大都市圏に隣接する県にあり、後期日程を重視した方が優秀な学生を確保できると判断したと見られる。

総合入試、AO入試、新しい入試制度

後期日程の廃止が相次ぐ一方で、新しい入試制度を設ける大学も目立っている。

北海道大学は2011年度の医学部入学試験で後期日程の募集する一方で、全学で「総合入試」と呼ぶ入試制度を開始した。
総合入試は募集人員を文系100人、理系1027人という枠を設定して、学部にこだわらずに募集している。理系の受験者は、個別学力検査で、数学重点、物理重点、化学重点、生物重点、総合科学の五つの選抜群を受験できる。学部は、1年次で履修した科目と成績により、2年次以降に決まる。理系で入学した学生から5人が医学部医学科に進学できる。

北海道大学の総合入試は、大学入学後、教養教育(リベラルアーツ教育)を通して将来の進路を考え、学部を決めるレイト・スぺシャライゼーションの試みとして注目されよう。

次に、AO(アドミッション・オフィス)入試は、東北大学、神戸大学、大分大学など7校が実施している。神戸大学のAO入試では25人を募集、大分大学も同25人を募集するなど、大型枠が目を引く。
AO入試は、面接や小論文などによって受験者を総合的に評価して合格判定する方式。国公立大学の医学部の場合、いずれの大学も大学入試センター試験を受験、個別試験は面接や小論文などを課している。

このところAO入試は、高校生の学力低下を招いている一因であると、見直す機運が高まっている。その一方で、AO入試で合格した学生は入学後の成績が良いとの報告もあり、より広範囲な検証が待たれよう。

面接を重視

医師適格者を見極める

さらにもう一つ、国公立大学医学部入試で見られる変化は、面接試験の重視がある。

面接試験は、学科試験による学力検査では把握できない医師としての適性や人間性を審査し、あるいは「なぜ医師を目指すのか」などの目的意識を知るために、医学部の入試で実施されている。

国公立では推薦入試や一般入試後期日程で面接試験を実施する大学が多かったが、このところ一般入試前期日程でも実施する大学が増えている。すでに2012年度入試では、国公立大学50校中42校が前期日程で面接試験を実施している。

さらに、面接試験を点数化する大学も目立っている。これまで面接試験は、医師として不適格者を排除するための試験という性格が強かったが、点数化により医師適格者を合格させるための試験に変わりつつある。

センター利用入試

私立大学で増える

次に私立大学の入学試験について見てみよう。

医学部を設置している私立大学は29校(自治医科大学、産業医科大学を含む)。各校ともに一般入試に募集定員の大半を振り分けているが、このところセンター利用入試、AO入試など新しい試験制度を実施する例が増えている。

センター利用入試は12校が採用している。一次試験にセンター入試を利用し、二次試験は学科試験をせずに面接や小論文を実施するにとどめている大学が多い。国公立大学の受験者が併願することを期待しているわけだ。

昭和大学はセンター試験を利用して「地域別選抜試験」というユニークな入学試験を実施している。全国を①北海道・東北・北関東②南関東③東京④中部⑤北陸・近畿・中国⑥四国・九州・沖縄の6地域に分け、各地域2人ずつ募集する。一次試験はセンター試験を利用しており、二次試験は小論文と面接のみを実施する。

地域医療に携わる医師の育成と、全国から集まった受験生による多様性を高めることを目的としており、合格者は一年次の授業料が免除され、6年間の学費合計は1900万円になる。

私立大学でAO入試は、獨協医科大学、金沢医科大学が実施している

獨協医科大学の募集人員は10人以内、一次試験では適性検査(科学的分析力、推理力を評価)、英文の出題による小論文、二次試験では面接のほかワークショップ試験を課している。金沢医科大学の募集人員は約10人、一次試験は書類選考、二次試験は基礎学力テスト、個人面接、グループ面接を実施する。

医学部の学費減額(値下げ)例

入試年度 大学名 6年間学費 改訂前→改訂後
2008年度 順天堂大学 2970万円⇒2090万円(2013年度は2080万円)
1年次(初年度)の学費を620万円から360万円に引き下げ、6年間の学費合計を880万円減額。
2012年度 東海大学 4170万円⇒3760万円
教育充実費を値下げ、6年間の学費合計を414万円減額
2013年度 関西医科大学 2970万円⇒2770万円
1年次(初年度)の学費を870万円から570万円に引き下げ、6年間の学費合計を200万円減額。
2013年度 昭和大学 2650万円⇒2200万円
6年間の学費合計を450万円減額。特待生は6年間で1900万円。
2013年度 東邦大学 3180万円⇒2580万円
授業料、施設設備費を値下げ、6年間の学費合計を600万円減額。

学費減額相次ぐ

6年間で2000万円台に

ここ数年の私立医学部で、大きな動きの一つが学費減額(値下げ)である。

まず、2008年入試で順天堂大学で1年時の学費と2年次以降の学費を合計880万円値下げして6年間2090万円を設定した(現在は2082万円)。これにより順天堂大学の学費は、東京慈恵会医科大学、慶應義塾大学を下回る最も安い金額設定となっている。

2013年度入試でも減額する大学が相次いでいる。

昭和大学は、2008年度入試での学費値下げに続き、2013年度入試では1年次の学費を50万円減額、さらに2年次以降の学費も減額して、6年間で450万円減額の合計2200万円としている。

東邦大学では、2013年度入試で授業料と施設設備費を6年間で600万円の大幅減額。その結果、6年間合計で学費2580万円を設定している。

学費削減はスーパーの商品値引きとはちょっと意味が違う。大学にとって教育・研究の質は、いかに優秀な学生が入学するかにかかっている。学費減額には、これまで成績優秀であっても経済的負担を理由に私立医学部への進学をあきらめていた受験者層を確保して、大学の競争力向上を図る狙いがある。

もちろん学費減額をしたといっても、私立大学の学費は、国公立大学に比べばまだまだ高額だ。一般の家庭にとって決して軽い負担ではない。それでも可能な限り、受験生に医学部の門戸を開こうという意図が読み取れる。

特待生の大型枠を設定

優秀な学生を取り込み

私立大学のもう一つの動きは、特待生制度の拡大である。

特待生制度は、入学時の優秀な学生に対して、学費の一部を免除する優遇措置。大学によっては2年次以降も同様の制度を設けている例もある。これまで特待生は各大学とも5、6人といった具合に小規模だったが、このところ数十人という大型枠を設定する大学が目立つ。

東京医科大学は2013年度入試で特待生枠を大幅拡大する。これまで特待生は一般入学試験の成績上位者15人を対象としていたが、これを35人に拡大し、さらにセンター試験利用入学試験の成績上位者20人も対象とする。これにより特待生枠は合計55人の規模になる。特待生は1年次の授業料と教育充実費の合計500万円が免除され、6年間の学費合計は、2477万3700円になる。

昭和大学の特待制度では、選抜試験(Ⅰ期)合格者78人と地域別選抜(センター利用入試)合格者12人を対象としている。特待生は1年次の授業料300万円が免除され、6年間の学費合計は2000万円を下回る1900万円となる。

ただし特待生制度は、ほとんどの大学で正規合格者を対象としており、繰り上げ合格者(補欠合格者)は対象としない大学が多いので注意したい。

建学の精神に立ち戻り

教育改革を推進

学費減額や特待生制度は、医学部の難易度に影響する傾向にある。つまり、学費が安いほど、難易度が上がるというわけである。

実際、大手塾・予備校の入試難易度ランキングを見ると、学費減額をした順天堂大学、昭和大学などが順位を上げており、難易度トップにある慶応義塾大学、東京慈恵会医科大学、日本医科大学の3校の水準に近づいているのは誰もが認めるところである。その点で、各校が実施した額費減額や特待生制度の充実は、優秀な学生を確保するための戦略として成功しているといえよう。

さらには、入試制度や受験生の違いから一概に比較はできないものの、国公立大学医学部と私立大学医学部の難度格差は縮まりつつあると見て良いだろう。医師家庭の受験生では、地方の国公立大学よりも都市圏の私立大学の医学部を志望する傾向が今まで以上に強くなっている。

だが学費の高低で難易度が決まるという医学部入試の現状には、ある程度の疑問をはさむ余地があるだろう。

現在、日本国内の大学は、社会からの要請を受け、教育機関としての再構築を迫られている。各校はかって創立者が提唱した「建学の精神」に立ち戻り、社会に対する大学のミッション【使命】を明確にして教育内容や研究体制の改革を急いでいる。教育の改革は、導入教育、教養教育に始まり、キャリア形成教育、専門教育まで、カリキュラムを再編成して、各校は独自の道を模索しつつある。

ところが医学部については、医師国家試験やそれに準拠するコア・カリキュラムの制約から逃れられないためか、各校の教育内容についての議論はあまり聞こえてこない。私立大学はもちろん、国公立大学の医学部にも長い歴史で築き上げてきた伝統と精神がある。入試に際して、本誌も含め、受験生が各校の教育理念とミッションを踏まえたうえで医学部入試を考えることが求められよう。

(出典  日経BPムック)

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カテゴリー:医学部受験のツボ

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