医学部受験を完勝するために(3)

2014年5月26日

その3:小学校時代に何をしておくべきか(その3)

(1)中学入試は決してゴールではない

前回において私は、医学部に進学実績の高い私立中学の入試問題が変貌してきた背景には、医学部における将来的に望まれる医師像がある点を理解していただくことでモチベーションアップに繋がる点に関して述べました。そこで今回は、この点を受けて小学生時代から将来を見据えて、医学部入試に完勝するために必要な別のポイントについて述べていきます。

すでに医学部受験に関しては、高いハードルを越えていかなければならない状況や、それが中学入学後において6年間の長きにわたる実情について説明いたしました。今回は、これから医学部受験を完勝することを目指すに当たり、来るべき中学受験おいて確認しておきたいことを述べていきます。それは、合格後の6年間という長い時間における勉学への取り組み姿勢に関する内容です。

この点に対して保護者や生徒諸君にとっては、「まだ志望中学の入試にも合格していないのに早すぎる」という声も聞かれそうですが、実はそうではありません。それは、端的にいえば中学受験は決してゴールではないという点です。むしろ、入学してからが本当の勝負であるということを最初に確認しておかなければ、受験だけでバーンアウトしてしまう可能性もあると思ってください。今回は、そのための確認です。

(2)中学・高校生の6年間は思春期と重なっている

6年間は長丁場です。これは保護者の方に特にお願いしなければならない点ですが、成人以上の立場から見る6年間と、中学・高校生のそれとは時間の重みがまったく異なるということです。といいますのは、子どもたちはこの6年間において、心身ともに大きく変わっていくからです。それは、いわゆる思春期を通過する時期であるということです。この間において、子どもは大人へと目覚めていきます。それは身体的な発達とともに、知的な発達が急ピッチで成し遂げられる6年間でもあります。いわば、自己形成の時期です。

発達心理学の知見を引けば、思春期は「私は誰?(Who am I?)」という質問に対して、「自分は自分である」ということに気づく時期であるともいえます。それは、身体的な発達である第二次性徴が契機となります。つまり、正確な自己像を発見することによって、「自分はこうなりたい、こうである」という自我同一性(アイデンティティidentity)を獲得する時期です。また、「やりたいこと、そのすべてを実現することはできない」という全能感の否定も起こります。このような知的な発達は心理学において「認知能力の発達」と称されますが、勉学にとっては「諸刃の剣」とも考えられます。それは、心情的にポジティブにもネガティブにもなりうる、ややこしい時期でもあるからです。つまり、このような認知能力の発達は、勉学上におけるモチベーションに大きな影響を与えるのです。したがって、この時期がちょうど6年間という医学部受験のための準備期にぴったりと重なっている点については重視しなければならないでしょう。では、どういった対応が必要なのでしょうか。

(3)成功体験の積み重ねが大切

まず大切なことは、この6年間においては、成功体験を数多く積み重ねることをお勧めいたします。と同時に、失敗体験に関しても対処の仕方、乗り越えるための気構えなどを学んでおくべきです。具体的には、中間テストや期末テスト・学年末テストにおいて満足できる成績をとり続けることです。この点に関しては直接的には医学部入試と関係ないように思われがちですが、それは大きな誤解です。そこで、次にこのことについて説明していきます。

これは特に難関私立中学に入学した生徒諸君に多い傾向ですが、成績不振に陥るケースがあります。つまり、地元の公立小学校では常に好成績を収めていたのに、晴れて志望中学に入学した途端に成績が下位の方になってしまうという状況です。しかし、この点については当然といえば当然です。それは、公立小学校では学力到達度や順位というような精度の高い学業成績を明確に保護者や生徒に提示することはなく、また最初から難関私立を志望している生徒諸君にとって小学校の成績自体はあまり気にならなかったからでしょう。また、これも当然ですが公立小学校では受験合格を目指した勉強は一切行われません。この点でも、学校での成績については無頓着にならざるをえないと思われます。そのため、難関校合格をターゲットにしている生徒諸君にとっては有名大手塾の公開模試の成績に一喜一憂するのが精いっぱいだったのではないでしょうか。しかしながら、今度は違います。生徒自身がほぼ毎日通学している学校の成績が、定期テスト等でははっきりと突きつけられるのです。

そして、難関校に入学すればこれもまた当然すぎることですが、周りのクラスメートもよく勉強ができます。同じ難関受験を潜り抜けてきたライバルたちですから当たり前ですが、多くの保護者や生徒諸君は定期テスト等の成績表を見るまでは、実感が沸かないというのが実際のところらしいです。これは、私の教え子の話ですが、無事灘中に合格したのはよいが、一学期の成績順位では下から数えた方が速かったそうです。彼は、それを「灘中ショック」と呼んでいました。決して笑い事ではありません。これは、別にトップクラスの私立中学にだけいえる現象ではないでしょう。なぜなら、いま現に生徒諸君の通っている私立中学は同じレベルの入試を突破してきたわけですから、力の拮抗は当然の結果なのです。

さらにいえば、私立中学では義務教育段階で既に高校内容の学習単元が下りてくることが一般的です。例えば国語では古文において、中二段階で用言の活用を習います。学校によっては、これが中一段階になる可能性があります。いずれにせよ、古文用言の活用は公立中学校ではさらっと流す程度にすぎません。かかる私立中学の学習課程の目的は、いうまでもなく高二段階ですべての学習単元を終えて、高三では入試対策に特化した授業を展開するためでしょう。むろん、公立中学のように土曜日が休みということもありません。夏期休業日も公立中学よりもはるかに少なくなっています。

ゆえに、このような状況下で成績不振に陥れば、もう医学部受験というレベルの話ではなくなってしまいます。モチベーションも当然下がってくるでしょう。否、それ以前の問題として、通学や授業そのものが憂うつになってしまうのではないでしょうか。ここに、前述のごとき「やりたいこと、そのすべてを実現することはできない」という全能感の否定が起こりますが、それが極端に拡大してしまえば生徒は非常に苦しい現実に立たされてしまいます。これが中高年の大人であれば、適当に自分をごまかすこともできるでしょう。しかし、思春期の生徒諸君では、そんなに軽く片付ける術を持ちません。前記のように、正確な自己像を発見することによって、「自分はこうなりたい、こうである」というアイデンティティを獲得する時期ですから、自己評価も厳しくなる可能性が高いでしょう。まして、医学部を受験し、かつ合格するという高いハードルがあるわけですから、他の学部志望の生徒諸君より一層事態は深刻であるといえます。そういうわけで、思春期における認知能力の発達は、まさに勉学にとっては諸刃の剣です。

(4)医師という仕事を選ぶに際しての動機付けの確認が大切

したがって、私立中学に入学した生徒諸君は、定期テスト等に対してしっかりと勉強のスケジュールを立て、一回一回の試験を勝っていかなければなりません。こう書くと「大変だなぁ」と最初から嫌になってしまいそうですが、そこは、否、それこそポジティブ思考を存分に働かせてください。すなわち、一回一回のテストが医学部入試のための練習であると捉えていくことです。周囲が皆同等かそれ以上の能力を有するライバルですから、練習の相手としては決して不足はないはずです。すなわち、役不足ということはないと思います。そのような数々の場面にて成功体験を積み重ねることで、自己評価もしだいに高められていくことでしょう。むろん、満足できない成績の出ない場合もあると思います。しかし練習ですから、この時を鋭く捉えて、失敗体験に関しても対処の仕方、乗り越えるための気構えなどを学んでおくべきです。その際には、保護者の方からの適切なアドバイスが功を奏すると思います。

ただし、この時期には思春期独特の反抗期というものがありえます。そこで、このような場合において威力を発揮するのは、医師という仕事についての動機付けでしょう。何のために医学部を目指し医師という仕事を選ぶのか、という点について小学校の時期から固めておくとよいでしょう。この点に関しては、1回目において私が述べたことも参考にしてください。すなわち、いわゆる受験勉強の中で、今行っている勉強がそのまま将来の仕事に直結しているのは、医学部受験だけであるという点です。このようなこの点を思えば、今真摯に勉強に励んでいる自己自身はとても恵まれていると思ってください。

それでは、次回はまた別の観点から、医学部受験を完勝するためのポイントについて解説していきます。

カテゴリー:医学部受験のツボ

医学部受験を完勝するために(1-1)

2014年4月22日

その1:小学校時代に何をしておくべきか(その1)

(1)医学部受験という高いハードル

医師になるためには、いくつかの高いハードルを越えていかなければなりません。その中で、もっとも難関なのが医学部入試です。実は、半世紀ほど前までは、医学部入試は現在ほど難関ではありませんでした。ところが、1958年に国民健康保険法が制定され、61年に全国の市町村で国民健康保険事業が始まりました。そこで、「誰でも」「どこでも」「いつでも」保険医療を受けられる国民皆保険体制が整いました。これにより、医師の収入が保険収入によって安定してきた頃から、しだいに医師志望者が増加してきました。しかも、近年では医師不足が叫ばれていますので医師という職業は今後一層、重要視されてくることでしょう。そして、現在のような難関としての医学部入試の状況が出来上がっていったと思われます。 

いうまでもなく、医師という職業は苦労も多いが、魅力に溢れています。おそらく、医学部志望の高校生は全国でも一学年に数万人はいるでしょう。しかし、そのうちで受験に成功し晴れて入学できるのは毎年約9000人であるといわれています。つまり医師になるには、かなり厳しい“受験戦争”をくぐらなければならないのです。

(2)医学部受験は、受験勉強そのものが仕事に直結している

これは非常に大切なことですが、いわゆる受験勉強の中で、今行っている勉強がそのまま将来の仕事に直結しているのは、医学部受験だけであるという点です。むろん、これに準ずるものとしては歯学部や獣医学部も考えられるでしょう。看護学部や薬学部もそれに近いと思われます。 では、それ以外の学部ではどうでしょうか。

例えば、法学部の受験を考えている高校生の全員が、弁護士などの法曹界で仕事をすることを志望しているわけではないでしょう。法学部を卒業して公務員を目指している高校生も多いはずだからです。また、医学部受験の場合、「ここは有名大学なので取りあえず、この学部でいいや」という姿勢で受験する高校生も皆無であると考えてよいでしょう。つまり、「この大学であればどの学部でもよかった」などという考え方での受験は、まずあり得ないということです。したがって極端なことをいえば、この逆はありえます。すなわち、学費のことを考えなくても済むのだったら「医学部であれば、医師になれるのであれば、どの大学でもよい」と。

いずれにせよ、要するに医学部を受験するのは「医師になるため」と強く思っている高校生が大半ではないでしょうか。すなわち、医学部受験のための勉強は、将来の仕事と直に繋がっている営みなのです。もちろん、医学部に入学しても、膨大な量の専門の勉強を継続していかなければなりません。ぶ厚い専門書を脇に抱えて歩く医学生を、私は何度も目にしています。彼らは、それを理解するだけではなく覚えないと卒業できません。しかしながら、医師国家試験の合格率は今や90%前後に達しています。加えて、医学部を卒業しておれば、医師国家試験を繰り返し受けることが可能です。つまり、医学部に合格し真面目に6年間の医学生生活を送れば、ほとんどの人が医師になれるのです。こんなにはっきりとした人生の道筋は、あまり例がないといえます。これは受験勉強それ自体が将来の医師という明確な職業に直結しているという、医学部受験ならではの実像といえるでしょう。

(3)差がつきにくい算数

医学部受験を考え、医師という仕事に就きたいと考えている生徒諸君はもう小学生の間から、中学受験を視野に入れて日々勉強にいそしんでいることと思います。否、逆にいえば医学部受験は小学生の時期からはっきりと意識して取り組んでおくべきです。そこで、今回から近未来における医学部受験をにらんで小学生時代にしておくべきことに関して述べていきます。まず、最初は算数からです。

はっきり言って、小学生でかつ医学部受験を考えている生徒諸君には、算数が好きで得意というタイプが多いようです。それは、保護者の方が医師である場合、子どもの思考様式がどうしても理系に傾くという現実があるようです。この点に関して、私はいわゆるDNA云々をあげつらうつもり毛頭はありません。むろん、それも多少はあるでしょうが、今まで多くの生徒諸君に接してきた経験から申しますと、保護者が医師の場合には、ご自身も算数・数学や物理が好きかつ得意というケースが一般的でした。それは、きっと医学部での修学時代における実験実習や日頃の仕事において、数理的な定量分析や検査を当たり前のように熟してきたからでしょう。そうなってきますと、日常生活でも数理系の話題や思考パターンが如実に現れることもしばしばでしょう。それが生徒諸君に少なからぬ影響となって顕在化するものと、私は考えます。

例えば、私が見聞したケースでは算数の問題の解法をまるでゲームのように、あるいはクイズのようにして親子で遣り取りの会話をしているシーンがありました。その状況を後で保護者の方に尋ねてみますと、返ってきた答えが次のようなものでした。「算数だと具体的な知識があまりいらないから、頭の中だけでお互いに考えることができるから」と。なるほど、そうかもしれません。これが社会科等のある程度の知識が必要なものだと、どうしても人生経験や今まで蓄積された情報量に左右されます。しかし、算数ならば一定のルールさえ覚えておけば、あとは理屈だけです。いわば、「子どもにもわかる」という明解な教科であるといえるでしょう。また、物理なども、特に理論物理ならば「紙と鉛筆だけで理論構築ができる」と言ってのけた科学者もいたくらいです。

しかしながら、ここで上記のような状況を考えてみるとき、私は逆にある危機感を覚えます。それは、将来の医学部志望における生徒諸君がこのように算数を好きかつ得意とするならば、この教科に関しては「差が出にくいのではないか」という点です。つまり、算数については「できて当然」ということです。

むろん、灘中や東海中などの国立大医学生を多く輩出しているような難関校を受験して合格するには、独学では大変であると思われます。このような学校に合格するには、専門とする塾に通ったりプロ級の家庭教師に習ったりする必要があるでしょう。このような塾や家庭教師といった専門家は、それこそ難関中の過去問や類題についての解法等を徹底的に指導してくれます。しかし、この点に関しても、いうまでもなく大概の保護者や生徒諸君は心得ているのではないですか。そうであるならば、このような状況では、私のいう「差が出にくいのではないか」あるいは「できて当然」が、ますます迫真性をもって理解されることと思います。では、その他にできること、否、しておかねばならないこととは何でしょうか。

(4)日頃あまり顧みられない計算問題を独学で固めておく

それは、計算問題に習熟しておくことです。先ほどの、算数をゲームのようにして親子で会話していた例では、計算問題のような問題ではなく文章題や図形の問題でした。その生徒が言うには、「計算問題は面倒くさいから扱わない」とのことでした。しかし、ここで一考すべき点は、ほとんどの生徒が塾や家庭教師に学んで難しい問題に慣れ親しんでいる以上、最終的に鼻の差で合否を左右するのは、むしろ日頃あまり顧みられない計算問題ではないでしょうか。よく生徒諸君からの声では、「計算ミスをして模試の順位が下がったので悔しかった」「せっかく式ができたのに最後の計算でポカをやった」等々を、私は過去に何回も耳にした記憶があります。この場合、「単なる計算ミスだから、たいしたことはない」という甘えは禁物でしょう。そんな甘えは厳しい「医学部への道」では通用しません。むしろ「1点の差」を重んじるべきです。

いうまでもなく、難度の高い文章題や幾何の学習については、塾や家庭教師等の専門家に教えを請えばよいのです。しかし計算問題であるならば、独学でも十分に練習ができます。さらに計算問題というのは、一度解き方のルールさえ覚えれば自分でどんどん先に進むことも可能でしょう。別に低学年であっても、そのルールさえ会得すれば入試レベルの計算問題にもチャレンジできるはずです。これほど簡単に実行できて、しかも近い将来における中学受験に役立つ自学自習はないのではないでしょうか。長い間の生徒と接してきた経験から、私はこの試みを是非お勧めいたします。

以上、私は今回において医学部受験という高いハードルから話を進め、次に医学部受験が仕事に直結している点を述べ、さらにこれらの点を受けて小学生の時期には算数では計算問題を独習すべきことについて説明いたしました。次回は、小学生時代において医学部受験・合格を目指す上で何をしておくべきかを、別の観点より解説していきたいと考えています。

カテゴリー:医学部受験のツボ

このページの先頭へ